MBA x 総合商社道場

MBAと総合商社の事業投資をメインの話題にしたブログです。

書評 未来に先回りする思考法

 

遅ればせながら、佐藤 航陽さん「未来に先回りする思考法」を読みました。特に第4章が面白かったです。面白かったポイントは以下の通り。

 

・本当に大きい成果をあげたいのであれば、真っ先にかんがえないといけないのは、「今の自分が進んでいる道はそもそも本当にすすむべき道なのか」です。

 ・テクノロジーを知るのは4段階「使える、ポテンシャルが分かる、なぜできたのか原理から理解している、実際の作り方が分かる」あるが、第三段階まで理解するのが重要。つまり、そのテクノロジーがなぜ誕生し、どんな課題を解決してきたか。

ロジカルシンキングはすべての情報をえることができない「情報の壁」と、意思決定者が持つ「リテラシーの壁」という二つの障壁が存在する。問題は、その二つの壁を認識しないままに、自分たちに認識できる現実の範囲を「全体像」ととらえてしまうことです。

・それまで自分の認識をもとに論理的に意思決定を行っていました。しかし、そもそも自分の認識はそんなに信用できるものなのか。

私たちにできるのは目の前にある手もちの材料を混ぜ合わせて、自分も周囲も納得できるような「その場しのぎの合理性」をつくることだけです。

・本当の意味で合理的な判断がしたいならば、非合理的なものを許容しないといけません。将来的に新しい情報が得られるだろうことを考慮に入れたうえで、一定の論理的な矛盾や深く自省をあえて許容しながら意思決定を行うこと。

・大きなリターンを出すためには、適切な時に適切な場所にいることが重要です。

 

デューデリジェンスで不良資産があったときのValuation

たとえば、DDで在庫を調べたら、100億円在庫のうち20億円が不良在庫であったとき、Valuationにどう反映させるか。

まず、評価方法によります。純資産ベースでのValuationであれば、net worthから20億円を差し引くだけです。非常に簡単。

難しいのは、DCFです。DCFは事業から生み出すCash flowをベースに株式価値をだすものなので、不良金額を純資産ベースの価値評価のようにそのまま減額すればいいものではありません。 (本で見たわけではないのでもしかしたら間違っているかもしれませんが) 一定額の在庫処分損を事業計画に入れて、毎期生み出すCashから当該損を引くことでValuationを下げるということになると思います。 不良在庫があるということは、この事業は毎期一定の在庫損がでる事業と考えられ、その損を営業利益から正しくひく必要があります。ではいくらひくかは不良在庫の中身をみて、どれくらいのスパンでどれぐらいの損が出ているかを見たうえで見積もるしかありません。

もっとも、DCFベースの減額がたとえば5億円ぐらいにしかならなかったら、Sellerがアホなのを信じて、20億円の減額を要求するもの手です。純資産とごっちゃになっている人は素直におうじてきたりします。

 

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商社の人材

最近、バタバタしていて久しぶりのアップになりました。

商社は長らく人材輩出企業であるし、自分が就活していたときも、経営者というキーワードがあったと思う。

しかし、トレードから事業投資、且つその事業投資も海外が主戦場になった今、商社のキャリアも変わってきているのかなと思ったりしてます。

というのは、トレード時代は商社マン一人ひとりが個人商店だったし、昔の事業投資は国内のグリーンフィールド案件や、海外でも日系企業向けの販社だったりで、日本人でも十分社長をやっていたわけです。

しかし、昨今のビジネストレンドは、海外の大型投資が主戦場になっており、こうなると、日本人である商社マンが社長をやるというのは、外人、語学、文化等の理解から現実的には相当厳しくなっており、実際の仕事は現地のプロ経営者と日々向き合う株主の役割が多くなります。もちろん、現場に入り込んでオペレーションを回す等の役割がなくなったわけではありませんが、確実に役割が変わりつつあるなーという実感がします。

では、株主に徹してPEみたいになればいいかというと、商社独自の強みを出すには、やはりトレードもやり業界、商品に精通する人材、いざというときに自ら経営に乗り込む人材、そして投資家といろんな帽子をかぶる必要があるのです。逆の言い方をすると、多くても数十人のPEとは異なり、数千人の終身雇用の従業員を抱える商社はそのビジネスモデルはできません。ということで商社の人材戦略は、向こう数年は手探りにならざるを得ないかもしれません。

M&A 出資に係る為替リスク

質問をいただきましたので、出資に係る為替リスクについて回答します。

 

まず、投資における為替リスクは、例えば、USD100milの会社を買収する場合、出資時のレートが1ドル120円のレートであれば、120億円になります。円建てBS上の出資金120億円になります。

 

これを5年後に同じ100milで売却するとき1ドル100円になった場合、100億円の価値しかなく、ドルベースでは同じでも、円ベースでは20億円の赤字になります。

 

為替リスクヘッジの主たる方策は、為替予約ですが、上記に例で言えば、出資時に5年後、ドル売りのレート(120円)を押さえておけば、為替で損をしませんが、現実のことを言うと、ほとんどのケースで、いつ、いくらでで売るかは決まってないので、為替予約は使えません。

 

次の方法としては、アメリカ法人で100milのドル建ての借り入れをおし、そこから投資をします。そうしれば、売却代金(配当)はドル建てなので、cash in /cash outの通貨が同じになるので、損をしません。別の説明をすると、円建てで見た借り入れが小さくなる(出資時120億円の借金が、売却時100億円と、円で見た場合20億円小さくなり、出資金の損とオフセットできる)。

一方、この方法は、通常ハードカレンシーのみで使えます。たとえば、ブラジルでレアル建ての借り入れをしようと思うと、流動性が小さい、乃至 金利がWACCより高い等でWorkしません。従い、円で安い金利で借りて、為替リスクを負った方が良いという判断になります。

 

 

 

 

 

 

 

ブラジルの金利 M&A

今日、サイトをチェックしてたら、昨年からブラジルの政策金利が6%に落ちているみたい。2年前は14%だったので、なんと8%も下がっている。

 

新興国のリスクフリーレート - MBA x 総合商社道場で説明したとおり、WACCの計算では資本コストはドル建てで計算しているので、直接は影響はないとしても、借入コストは偉い下がっているはず。ということで、WACCも2年前に比べて相当下がっているはず。

 

少し驚きました。

 

Terminal Value (TV)設定時の注意点② (CAPEXと減価償却を均等させる)

ご質問(CAPEXと減価償却を均等させるの意味)をいただいたので、新しいエントリーで回答します。

 

(前提)

TVは最終年度のFree Cash Flow(FCF)÷(WACC▲成長率)であり、FCFの計算式は

FCF=純利益+減価償却-CAPEX-運転資金増になります。この計算式を見るとわかる通り、純利益が同じでもCAPEXやworking capitalによって、FCFが増加することになります。

 

たとえば、投資先がGrowth Stageにあるとき、売り上げを伸ばすために、大きめのCapex100をうったり、また売り上げも右肩上がりなので、working capitalも増加します。一方、減価償却(D&A)は、このCAPEX前は大きい資産がなく、30と少なめ(たとえば固定資産が150で5年償却)。

 

(成長期)

PAT                      100

Capex                   -100

D&A                       +20

Working Capital      -30

FCF                          10

 

一方、TVの最終年の場合は以下です。事業計画は、事業が安定期に入るまで作成することになっており、最終年は、成長が止まり、横ばい(乃至インフレ分のみ成長)になっているのが原則になります。

従い、成長投資はもうせず、メンテナンス投資、売り上げも増えないので、運転資金増がない状態になります。具体的には、固定資産250(150+100)を5年償却、5年おきに設備を更新するイメージです。そうすると、5年おきでみれば、CAPEXと償却が同じなるはずです。

 

(最終年)

PAT                      130 (上記CAPEX100が寄与)

Capex                    -50

D&A                       +50

Working Capital         0

FCF                        130

   

TVのベースとなるFCFは事業計画が終わった翌年から未来永劫続く前提のものなので、FCFがゆがんでいないか、確認する必要があります。