MBA x 総合商社道場

MBAと総合商社の事業投資をメインの話題にしたブログです。

新興国のリスクフリーレート

新興国のValuationをするとき、まず問題になるのが、どこのリスクフリーレート、つまりどの国債の数値を使うか。

結論としては、ドル国債を使い、WACCを算出した上で、インフレ調整(+カントリーリスクプレミアム)したうえで、現地j通貨建てのWACCを算出する。

理由としては、新興国国債は、CAPM理論は、リスクフリーではないから。例えば、ブラジル国債は2016年11月現在15%ぐらい。一方、アメリカ国債(長期)は2%、両国のインフレ差は2.5%(ブラジル4.5%-アメリカ2%)とすると、ブラジル国債は4.5%が理論値のはず。従い、10%ぐらいリスクプレミアムがのっていることが分かる。従い、ブラジル国債はリスクフリーの資産ではないと言える。

更にいうと、新興国は市場が未成熟なので、データのAvailabilityに問題がある。子の観点からも、アメリカのデータを使うべきと言える。

 

 

 

 

 

なぜ卸売業の自己資本比率は低いか? を図にしました

製造業

       
債権 100 債務 50  
在庫 50 短期借入 100 =運転資金
固定資産 400 長期借入 200  
    自己資本 200 36%
総資産 550 総資産 550  
         
卸売業        
債権 250 債務 150  
在庫 190 短期借入 290 運転資金
固定資産 50 長期借入 0  
    自己資本 50 10%
総資産 490 総資産 490  

なぜ卸売業の自己資本比率は低いか?

財務分析の教科書に、卸売業の自己資本比率は20%、製造業は30%程度は必要と書いてあるが、なぜ商社は製造業に比べて自己資本比率が低いか。

答えは、運転資金。運転資金とは「売掛債権+在庫ー買掛債務」から計算されるが、商社の場合は在庫や金融機能のため、運転資金が大きくなる。この運転資金は通常短期の借入金で賄われる。この借り入れは、借入であるが、売掛債権と在庫が不良化しない限りは、商売をやめると返済が可能となる。(例:在庫を1億円持ち、借入が1億円あったが、在庫を全て簿価以上で販売すると、借入はゼロになる) よって、金融機関も商社の販売先等が優良であれば金も貸しやすい。

更にTrade主体の伝統的な商社は固定資産を持たない。固定資産を持つと、基本的には基本的には長期で回収する資産なので、銀行から借入100%賄うことは珍しく、一定割合で自己資金が入る。よって、製造業の自己資本は厚くなる。

このように、財務分析は機械的に比率を覚えるのではなく、なぜそうなるのかを考えるのが大事。

 

 

 

 

 

 

 

なぜ債務超過=倒産ではないか?・

うちの新人に「この会社債務超過なのに、なぜ倒産しないのですか?」と聞かれたので、その答え。 

まず債務超過とは会計上のBSで、株主が払い込んだ資本金等よりも、過去の累積損失が大きくなっている状態。つまり、過去、株主から預かった金を全てすってしまっている状態。(例:資本金1億円と借入50百万円で事業を始めたが、全額すってしまった。この場合債務超過額は50百万円)

ではなぜつぶれないかというと、誰か(基本は株主か銀行)が継続して資金を出してくれるから。なぜ儲かっていない会社に資金を出してくれるかというと、理由はさまざまで、以下の通り。

・大企業にとって戦略子会社で、まだまだ金をつっこんで成長させたい。

・銀行が金を貸し付け過ぎて、損失計上を先送りしたい。(too big to fail)

・過去は儲かってなかったが、しっかりとした将来もうかる計画があり、それが銀行にも認められている。

・BS上の資産に含み益があり、実質は債務超過ではなく、それを担保に金を貸せる等

いずれにせよ、最初にいったように、債務超過とは過去儲かっていなかった結果を示すものであって、資金繰りとは異なる概念ということを理解しなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

海外のMerger filing

総合商社が、新規設立、買収に係わらず、広く世界で事業展開しているパートナーと合弁事業をやる場合、海外の競争法、特にEUと中国のFilingが必要となる場合がある。

買収の担当者は、常にこのポイントを意識して、弁護士に独禁法の届出の要否を確認する必要がある、でないと、クロージング直前にこのことが判明し、株式の取得が予定より遅れたりする。

注意点としては、まず合弁会社がどこの国にあるか、どこで事業展開をしているかは関係ない。車や鉄のように、今の世の中は少数のグローバルメーカー市場を寡占してたりすので、仮にトヨタと日産とホンダが合併したら、日本企業同士の合併だからといって、この影響は全世界に及ぶ。よって、現在の競争法は、自国のみならず、自国の外の企業結合が自国にも影響がある場合はフックがかかるようにしてある(いわゆる域外適用)。

この域外適用は趣旨としてはもっともであるが、一方、問題もある。例えば、総合商社の子会社の日本国内食品スーパー同士を合併させるとする当然、スーパーなので、EUはおろか海外で売上は1円もないのに、
親会社の総合商社は、当然EUや中国等での売上があるため独禁法届出が必要になってします。因みに買収だけでなく、新規設立も対象となります。

以上のように総合商社の場合全世界に売上があるので、合弁会社パートナーが、総合商社だったり、グローバルに事業展開しているメーカーだったりすると、代替各国の独禁法にあたってしまいます。

先ほどのスーパーの例みたいに、海外の売上なく全然関係ないのに、すごく手間だけかかり嫌になることも。もちろん案件がダメになることはないが、Filingに3-6カ月時間がかかり、弁護士費用もかかる。

私の知っている事例では、filingするのが嫌で、共同支配にならないよう、Veto rightをあきらめ、合弁契約を締結しないことで運用したケースもある。

負債コストの理論2

 

前回、負債コストは、企業の借入コスト(表面利回り)を使うが、理論的には期待利回りを使うべしと説明した。ではどうやって期待利回りを出すか。やり方は2つある。

 

1つ目は、企業の倒産リスクと清算配当に前提を置き、倒産リスクを推定し、期待リターンを出す。私は見たことないが、米国等ではData baseが整備されているらしい。

 

  期待リターン=表面利回り-倒産コスト※

  ※倒産リスク=倒産確率×(1-清算配当)

 

2つ目は、以下の算式で算出する。(理論上、倒産リスクがのっていない)BBB格企業の表面利回りに、倒産リスクを上乗せするもの。倒産リスクは、債権のRisk Premiumが入手できないので、株式のMRPを代用。これに、投資適格債権とハイイールド債権のベータの差をかけることで、投資不適格債権の倒産リスクを算出する。

 

  BBB格企業の表面利回り +(投資適格債権とハイイールド債権のベータの差)×MRP

   

  繰り返しになるが、実務ではあんまり使わない。

 

負債コストの理論1

以前負債コストは、企業の借入コストから推定するのがPracticeであることを説明した。実務ではそれで全てであるが、今回は負債コストの理論をもう少し掘り下げたい。

 

CAPMで使用する負債コストは、実際は企業の借入コストではなく、投資家の期待利回りを使うべきというのが理論となる。借入コストは数式でいうと以下の通りで、投資家はある程度倒産リスクを利回りに上乗せしており、実際の期待利回りは表面利回りから当該倒産リスクを除いたものとなる。具体的には、100の債権で表面利回りが8%とし、倒産確率が5%で清算配当が20%あるとすると倒産リスクが4(100*5%*(1-20%))とすると、投資家の期待リターンは4%となる。

   借入コスト(表面利回り)=期待利回り+倒産リスク

  

ということで、実務では企業の借入コスト(表面利回り)を使うが、理論的には期待利回りを使うべしということになる。

 

因みに、コーポレートファイナンスの教科書で、投資不適格の借入コストは、信用スプレッドが乗って高くなる為注意が必要と書いてあるが、この意味するところは、投資適格であれば倒産リスクは少なく、借入コスト=期待利回りだが、投資不適格の場合、倒産リスクがのるので、借入コスト≠期待利回りとなるということを意味している。