キーマン条項 M&A
会社を買収する際、たとえば、DDをしてみたら、有能な経営者や技術者等がいて、その会社のオペレーション・企業価値に大きな影響力を与えているというケースがあります。こういう場合、買収後一定期間(通常2-3年)会社にとどまってもらうという条項、キーマンクローズを入れることがままあります。
一方で、この条項は、創業者が大企業に会社を身売りするケース、つまり、売り手とキーマンが一致している場合はいいのですが、そうでない場合は難しい問題が生じます。
というのは、キーマンのリテインを契約で確保しようと思うと、キーマンとの雇用契約締結をSPAのクロージング条件にするか、SPAと同タイミングでキーマンとの雇用契約を締結してしまう(クロージングが発行条件)の2つがありますが。しかしながら、現実的には難しいことが多い。
前者については、売り手からすると、買い手がキーマンにどんなオファーをするかわからず、またキーマンが買い手の下で働きたいかも不明。従い、なんかの理由で、買い手からキーマンが逃げたので、この取引はできませんというのは少し受け入れがたい契約と思います。もちろん、たとえば、有名タレントとかデザイナーとか売り手も納得するような、名実共にその会社価値=その人みたいな感じであれば、キーマン条項は飲んでくれる可能性あります。
後者については、STIPやLTIPの細かい条件を固めようと思うと、シナジーの内容に触れないといけないので、SPA前に、売り手がどんなシナジーを見ているか、相手方にばれる可能性があり、これはこれでリスク。
従って、我々ができることは、Baseやボーナスの金額(詳細条件は前述のリスクがあるので握れない)、用意しているポストを提示して、Bindingにはならないものの意思確認をきちんと行い実態をきちんと押さえていくというのが大事になると思います。もちろん、クロージングしたものの、やっぱ辞めたというリスクはあります。
M&Aの経験値、ノウハウをどう高めるか
どの事業会社でも、M&Aの経験値、ノウハウをどう高めるかについて、いつも頭を悩ましていることと思います。FAを雇ってもDealを成立させてくれても、特にビジネスDDの精度が高くなるわけではないし、コンサルを雇って調査させても、依頼する我々がちゃんとしてないと、きちんとした成果物は得られません。
私としては2つのアプローチをお勧めしたいと思います。
1つは、まず小さい規模のDealをやる。本命の会社を買う前に、失敗しても許されるサイズで買収してみると、仮説と検証プロセスや買収後に問題となった事項を学ぶことでDDの精度を高めることができます。また買収した会社のメンバーも本命の買収に活用できるので、業界知識も補強できます。難点は、そんな都合のいい案件があるのかという点ですが、私の経験では、そういう案件がないことはないかなと。
2つめは、売却案件を通じて、買収が上手と言われている会社やPEのDDをSellerの立場で受けてみること。彼らの一流のビジネスDDを受けることで、学ぶことがかなりあるはずです。
M&A いかに高値掴みを回避し、安く買うか。 番外編 HOYAの鈴木CEO「しょうがない」
先日アップしたM&A いかに高値掴みを回避し、安く買うか。 - MBA x 総合商社道場に関して、HOYAの鈴木CEOの記事が出ていたので、シェアします。
東芝とTOB合戦、敗れたHOYAの鈴木CEO「しょうがない」:日経ビジネス電子版
随所にM&Aに対する経営者の心構えはかくあるべしと思う、コメントがありました。
・買うためにTOB値上げを考えなかったのかという問いについては、「ないですね。それは結局うちのリターンが減るということですから。」とか、
・価格についても、リターンを逆算して決める。価格をどんどん上げていくと、うちにとってリターンのない投資をすることになり、うちの株主の価値を毀損してしまいます。その意思はありません」とか
・「自分で決めた価値でしかディールは進めたくない会社ですから。「マーケットフェアバリュー」とか、売り主がいくらで売りたいかとかはあまり関係ないんです。」とか
・ものは安く買って高く売るのが一番いいので、機会を待つしかありません。
M&A いかに高値掴みを回避し、安く買うか。
買収価格が高くなればなるほど、減損リスクが高くなるだけではなく、買収後の資金余力がなくなり、さらなる成長のための投資等も困難になる等の弊害あり。
安く買って、高く売るのが基本中の基本であり、ではどうすればいいのか、難しい問題ながら、以下私の解決策を書こうと思う。
・交渉前にwalk away priceを決める。
過去のDealで値上げに応じず一旦Breakしたあと、半年後売り手が戻ってきて希望の価格で買えたことがあります。
・買収前と買収後の責任者を同じにする。
これを別の人間にすると、Dealのクローズさせればいいという無責任主義がはびこります。
・普段から買収候補先と仲良くなって、相対に持ち込む
私の知っている例では7年越しでラブレターを書き続けたケースを知っています。
・時期を待つ
自分がその業界にいれば、業界のトレンドが分かるはず。業界のサイクルを見越して、不況時に案件を仕込むと当然ながら安く買えます。でも、一般的には、そのタイミングは当然自分の業績も厳しく投資資金の調達や社内外への説明が難しいはずなので、言うほど簡単ではありません。
walk away price の難しさ M&A
交渉前にwalk away priceを決定するというのは、超当たり前のプロセスながら、実は実行するのがとても難しいです。
というのは、以前、DCFの回でも説明したが、DCFでは前提の置き方で数字がめちゃくちゃ変わるし、シナジーも実現性を無視すればいくらでも織り込めるので、結局walk away priceを設定するとして、売り手の要求金額にMeetしようと思えばMeetできてしまうことになります。
結局、経営者がどこまでDisciplineをきかせられるかにかかってきてしまいます。当たり前ですが、「死んでも、このDealを落とすな」とトップが大号令をかけたら、サラリーマンは止まりません。
DD デューデリジェンス どうすすめるか 網羅性とピンポイント
DD デューデリジェンスをやるうえで、いかに大事な点にフォーカスするか。プロマネは、DDを始める前に、DDの大事な点を明らかにしないといけません。
Key questionは以下の3つ。
Is base case is Sustainable?
Is downside is manageable?
Is significant upside Available?
この3つの質問にそって、大事なポイントを3-5個選ぶ。(多くても7つぐらい) できるだけ、それにフォーカスして深堀する意識を持ちたい。
もちろん、会計士や弁護士には、DDで最低限必要な項目は当然カバーしてもらうにして、Buyerとして気になっている点については、きちんとDDのキックオフで伝えることも大事。
ゴーン氏 脱出劇
カルロスゴーンの報道が連日されていて、おもしろいですね。有罪率99%の日本の司法の闇を考えるとゴーン氏が国外逃亡したくなるのもよくわかりますし、一方、潔白ならなぜ逃げるというのも正論で、なかなか難しい。
私が思うのは、カルロスゴーンってビジネスマンとしては一流だったんだろうなということ。なんというか、常識にとらわれずに高い目標(国外逃亡)をかかげ、その目的にむかいtenetiousに、ここまでかと行動し、且つ、途中でばれるかもしれない(出獄時の変装みたいに)リスクもとり、且つ、その大博打に勝つという運。どれも凄すぎます。
私だったら、いくらでも払うし、罪もみとめるから、早く普通の生活をさせて欲しいとしか思わなそう。
日本の経営者って、松下さんとか稲森さんの影響もあるのかもしれないが、なんとなく人格者を求めてしまうが、ゴーンさんとかジェックウェルチとかもそうですが、部下からすると、”彼の部下であったときが人生の最悪期”みたいな感じで、かなりアクの強い人が多い印象ですね。